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Channel: 夜噺骨董談義
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大津絵 その14 提灯釣鐘   

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大津絵は本作品で14作品目の投稿となります。

大津絵は世相を風刺した主題がある作品がありますので、何を風刺した作品なのかを理解していないと面白味がわからない作品も群があります。

大津絵 その14 提灯釣鐘   
紙本着色軸装 軸先木製 合箱入 
全体サイズ:縦1245*横372 画サイズ:縦503*横269



猿が天秤棒(てんびんぼう)を担ぎ、前には提灯、後ろには釣鐘をさげていますが、何故か天秤の傾きは、軽いはずの提灯が下がり、重い釣鐘が上がっています。これは、重んずべきものを軽んじ、道理が転倒している世の中を風刺したものとされています。



必ずしも猿=悪とは限りませんが、大抵の大津絵では猿が愚者の象徴として登場しています。この図でも、猿は道理に合わないことをする者、物事の軽重をないがしろにする者として描かれています。

もっとも、猿が無理矢理、釣鐘を持ち上げているのではなく、世の中がそういった不条理であふれているという解釈の仕方も可能です。「全く違って釣り合わないもの」の例えで、「月とすっぽん」などと似た意味合いです。片側が極端に重いということから、「片思い」に引っ掛けた洒落も存在します。



かなり古くから描かれていた図のようですが、最も多く現存しているのは江戸後期の一枚版の図で、かなりの人気があったようです。猿の顔がとても面白く描けています。



猿の表情が実に面白いですね。

さて、賛はなんと書いてあるのでしょうか? 

道歌と称し、絵によって決まっているようで、「提灯釣鐘」の場合は「身をおもう思いはおもく 主親はかろくなりぬる人の姿よ」と書いてあるようです。「人は自分を大切にするが、親を軽んじる」という意味かな?

大津絵の道歌

世俗画は当時栄えた世相が刺激したものであり(役者とか太夫とか)さらに進むと、今度は当時流行した「心学」の大きな影響を受けて、大津絵もその性格に一変化が起きました。これを内容の上から第三期と呼んでもよく、ここでは仏画が衰えを示しますが、世俗画は画題の数をさらに増し、しかも特殊な目的を浴びるに至りました。

初期の世俗画が「諷刺的」であったのが、心学の変化はこれをさらに「道訓的」なものに変わりました。この期の大津絵に見られる著しい特色は、二枚版がようやく少なくなって、一枚版が流行したことと、さらにその一枚版には絵の周囲に道訓的な和歌を添えるに至ったことであって、これが第三期と云えます。

本作品はこの歌があること、二枚綴りであることより、第三期への変遷期の作品と思われます。

大津絵の二枚綴について

二枚綴(にまいつづり)は二枚継ぎとも呼ばれ、古典的な大津絵の特徴となっています。最も入手が容易で安価であった半紙を、絵を描きやすい大きさに継ぎ合わせたものです。

江戸初期から中期にかけての大津絵は、ほとんどがこの二枚綴の大きさでした。初期には稀に三枚を継いだより大きなものもあったようです。江戸後期は、逆に継ぐことをやめ、半紙(半紙のサイズ:縦24〜26センチ、横32〜35センチ)そのままのサイズで描くようになっていきます。

江戸初〜中期の大津絵として売られているもので、二枚綴・三枚綴以外のサイズであったり、継ぎが無いものは考えにくいので、古大津絵を入手するときには一つの判断ポイントになります。

当方も近代の作品を古いものと思い購入し、あとで継ぎ目を思い出して確認すると一枚であり、地団駄を踏む思いをしたことが何度かあります。さらには継ぎ目まで設けた近代の作のあるのでますます注意を要します。

大津絵(日本民藝館所蔵・東方出版)の本に画家の浅井忠旧蔵の「提灯釣鐘」が掲載されています。



その評には「猿の性格を見事に捕えて表現した一図として、この図は最も優れた一幅といえよう。・・云々、簡単な線と描写とで、残りなく、画意を伝え得た佳作と讃えてよい。特に猿の顔は並々ならぬ表現。」とあります。



本作品は無論、この作品より時代が下がるものですが、やはり一枚絵よりは味わいがあるようです。

大津絵は古いほど良い作品が多く、近代の作品はとても及びつくものではありません。

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