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獅子図 大橋翠石筆 その9 大正年間

先週末は息子の運動会。コロナ禍でなかなか集合してできなかった運動会もなんとか短縮しながら全校でできました。
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本日の作品紹介は久方ぶりに大橋翠石の作品です。
虎の絵を多く描き、パリ万国博覧会 (1900年)において日本人で唯一の金牌を受けるなど欧米でも高く評価された日本画の大橋翠石。もともと大橋翠石は動物好きで、猫の絵が見事であったため、知人から虎を描くよう勧められたと伝っています。虎以外にも獅子、鶴、白孔雀、鹿、狸、狼、猫、兎、金魚、蛍などの動物画も多く、珍しいところでは、白熊やカンガルーの絵も残っているようです。自宅ではインコやクジャクなどを飼育していたとされ、動物画以外にも観音菩薩の仏画や山水画などの作品もあり、その画域は意外に広いとされます。
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そのような大橋翠石の画題の中でも虎以外に初期の狸、晩年の猫、そして初期から中期かけての獅子が出来として良い作品があるようです。本日は大橋翠石の獅子を題材にした作品の紹介です。
獅子図 大橋翠石筆 その9 大正年間 絹本水墨淡彩軸装 軸先骨 合箱 全体サイズ:横540*縦1940 画サイズ:横420*縦1270分類B:1922年(大正11年)~1940年(昭和15年)58歳~66歳 第2期
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本作品は落款からは神戸時代の前期、須磨様式時代(1912年 大正元年~1927年 昭和2年)の作と推定されます。
印章は白文朱方印「大橋翠石」で、この印章は初期の明治の頃から晩年まで幅広く押印されています。下記の写真右は図集からの印影です。
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この頃の落款の「翠石 」は「石の文字が太い 2期 1922年(大正11年)-1940年(昭和15年)」に分類されるものです。下記の写真ふたつは図集からの落款です。
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印章・落款・作風から真作と断定できます。
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席画のごとく非常に速い筆致で描かれていますが、さすがに描写はうまいものです。同時期の竹内栖鳳の似た感じがしますね。Image may be NSFW.
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僅かに金泥を使っています。
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この作品を描いた推定される大正初期に大橋翠石は、当時は恐るべき死病であった結核を患っています。そのため当時の日本では結核医療の先進地であった、神戸・須磨で治療を受けるために、大橋翠石は住み慣れた大垣を離れることとなっています。
万国博覧会における連続受賞や皇室への献上品なとを経て、高い評価を受けながら大きな障害と闘うことになったのです。
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神戸にて病と闘いながら、大橋翠石は絵筆を離さず精進し、新たな芸術を志向しています。この頃の最初には修行途中の画家が用いる落款に「生」の一字を再び入れ、「翠石生」という落款名を再び使うなど真摯な学びから遂に「須磨様式」という特異な画風を完成させます。
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この時期からはもやは中央展覧会への出品で作品を世に問うということはなくなります。印には「人世到処断崖多」を使用している点からも、世に出ることを避けて厭世的になっていたとも思われます。このことが大橋翠石の名を大きく世に知らしめる障害になったのかもしれません。
それでも老境を迎えた昭和初期には、日本画壇を代表する二大巨匠として名声と最高画価(市場評価額)を長らく誇ってきた竹内栖鳳・横山大観両氏に並ぶ形で、翠石にも最高画価が付けられるようになっていました。それほどの人気を誇った翠石ですが、最後まで日本画壇とは交わることなく、文展、帝展、院展といった権威ある国内の展覧会に出展することはなかったようです。 
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松方幸次郎ら阪神間の政財界の人々は後援会を結成しており、翠石の虎画は神戸でも評判になり、当時「阪神間の資産家で翠石作品を持っていないのは恥」とまでいわれたとされます。勇猛な虎の画風とは対照的に、翠石ははにかむような静かな人柄であったといわれ、一時の名声に執着することなく恬淡と好きな虎の絵を描き続けたそうです。
わが道を歩んだ翠石、「孤高の生き方ゆえに、多くの作品が所在不明となり、名前すら忘れられたのでは」と考えられてきましたが、近年複数回の展覧会が催されて再評価されています。
*当方の所蔵作品「正面之虎」にも関西地区の展覧会(兵庫と岐阜にて2020年に開催)から出品の依頼がありましたが、残念ながらコロナ禍のため遠方からの出品は主催者側が断念したようです。
**本作品はインターネットオークションにて約4万円弱にて入手しています。
***箱内には「庄内和作氏より寄贈された獅子 昭和三十七年秋」という書付がありましたが、詳細は不明です。
虎の作品は見かけることは多いでしょうが、獅子の作品は珍しいと思いますので最後に画集から大橋翠石が描いたライオン(獅子)の作品をピックアップしてみました。
「獅子虎図屏風より」:初期の作で明治28年以前とされています。
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「獅子虎」: 兵庫の川崎造船所(現在の「川崎重工」)の創業家「川崎家」の旧蔵です。
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「獅子睡眠之図」:本日紹介した作品とほぼ同時期の大正時代の作。最近になって初公開された作品でもあります。
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大橋翠石の虎の作品はなかなか真作の入手は難しいし、あっても力作なら50万円以上のお値段です。とくに晩期の作は贋作は難しく、贋作には初期から中期にかけての作が多いようです。ときには掘り出し物もありますが、印章や落款だけでは判断がつかない作品が多々ありますので要注意です。

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